楽曲解説『炎と老婆』

大学生の時の話だ。

冬休み、友人二人といつもの安い食い放題の焼肉屋に行った帰り道のこと。

 

友人の運転する車に乗ってると、右手に轟々と火事を起こしている一軒家を見つけた。

 

田んぼの中にポツンと立つ一軒家。

水平線に広がる田んぼの海の中で、噴煙が真っ黒い夜に溶けている。

 

怖いもの見たさに、コンビニに車を止めて私たちは畦道に降りて行った。

 

すると近所の婆さんが、みかん箱か何かをひっくり返したのを椅子にして、座り込んで一人で火事を眺めていたのだ。

 

所在無く私達は婆さんと横並びに炎を眺めることとした。

 

チラっと婆さんは横目で私達を見る。

話し相手を得たのが嬉しかったのか、婆さんは真っ直ぐに炎を見ながら、強い訛りの秋田弁でポツリポツリと呟きだした。

 

私はその日の婆さんの姿と、真っ黒い冬の夜に張り付いた炎が忘れられない。